スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新の無いブログに表示されています。
新しい記事を書くことで広告が消せます。
  

Posted by さがファンブログ事務局 at 

2009年06月24日

「伏見桃片伊万里」27

「私は酒毒。下手をすると二十五までも生きられん。不思議なものでな、同じ酒毒でも、女房子持ちの方が酒毒に勝ってやっていくんだよ。独り者は、絶対予後がよくない。―私は慎一郎の万分の一でも、医者として世に出来る限りのことをしなければならないんだ。たのむ。まったく迷惑な話だろうが」
「・・・」
「お千代ちゃん、私の娘になってくれ」
 母子は驚愕のあまり、固まっている。
 圭吾は吹き出した。
「ぷっ、こんな珍妙な求婚、聞いたこともないぞ。お登世さん、こいつあんたに惚れてるんだよ。まあ、今まで女を口説いたこともない朴念仁だからなあ」
「お前には、言われたくない。お登世さん、私と所帯を持ってくれたら、神かけて二度と酒は手にせぬ。―尤も何度もそういってはまた飲んで女房子を泣かすのが、酒毒の常ではあるんだが」
「何を、支離滅裂なこといってる。酒毒の解説はいい。今は口説いているんだろうが、お登世さんを。―お登世さん、こいつは自分が病だってことわかってる。大概の酒毒にゃそれに気付かせるまでが骨なんだが、大丈夫、こいつはあと五十年はもつ」
「五十年たぁ安受けあいするなあ、圭吾」
「いや、やっぱり、十年かなあ。―まあ五年は―」
「馬鹿野郎!」
「先生たち、面白いわあ」お千代の明るい声がした。
 芯に青磁のあをを潜めたように、桃の花は怖いほど冴えたうす紅であった。
 花が、風に散る。
(慎一郎、いい供養になったな。それにしてもなあ、お前と一緒に、この花を見たかったよ)
  


Posted by 渋柿 at 09:02 | Comments(0)