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Posted by さがファンブログ事務局 at 

2009年06月17日

「伏見桃片伊万里」19

 離脱状態から脱した後も、隼人の心身の回復は覚束なく、目が離せなかった。それでも、少しずつ、布団を畳み、箒雑巾を持ち、と日常生活の波をゆっくり取り戻していった。
 十八日には三人一緒に湯屋にも行けた。二十一日には一番早く起きて、飯を炊いた。
(このまま、酒を断てたら・・)圭吾と慎一郎に、希望が見えた。その朝・・
「味噌が、切れた」隼人が、やっと洗物を終えていった。
自分なりの、回復への努力である。
「買って来る」圭吾は慎一郎を見た。
 やらせよう、と慎一郎は頷いた。
 味噌は豆腐屋の一軒置いた隣、荒物屋で売っている。ふわふわと、まだ重量感のない足取りの隼人を、見送った。

 その時、けたたましい蹄の音がした。
「どけ、どけ!」
 早馬の疾走。 襷鉢巻も物々しい武士が騎乗していた。立ち竦む隼人。瞬時のことだった。小さな体が、横から飛び出しわが 身でそれを庇った。
 慎一郎だった。
 鈍い、音がして二人は蹴り飛ばされた。
 流石に、馬上の武士が手綱を引き絞っていた。しかし、下馬はしない。
「慎一郎!隼人!」圭吾は駆け寄った。
 馬が嘶く。
(血!)それは、隼人の血ではなかった。
 尚もその両手はしっかりと隼人の肩を抱いている慎一郎の体の下に、赤いしみが出来、広がっていく。
「慎一郎!」
「うっ」うめいてやっとよろよろ立ち上がったのは、隼人だけだった。
 慎一郎は、動かない。圭吾は、震える手で慎一郎の脈を見た。
(触れない!)
  


Posted by 渋柿 at 14:11 | Comments(0)