2009年02月17日
お菓子で作る伊万里のウィンド美術館
本町アーケード、漂ってくるお菓子の甘い香りをたどると、ちょっとおとぎの国めいて、美しく飾られたショーウィンドウに出会いました。本物のような伊万里焼や洋風の装飾品など色鮮やかな工芸細工が展示され、その名も「お菓子で作る伊万里のウィンド美術館」と、しゃれた文字看板で表示されています。創業百年を誇る「伊万里焼饅頭本舗・菓子処エトワールホリエ」の本店です。
ウィンド横の表示で、見事な工芸品が間違いなくお菓子であることがわかります。寒梅が咲く季節にもち米の新米を製粉した寒梅粉と粉砂糖を煉った雲平細工、ガムペーストを使って作られているのです。
左ウィンドの下方には、本物の陶磁器もありました。流水桜花文や江戸美人など色鍋島の図柄を店主ご自身で絵付けされた、限定販売「陶箱入り銘菓」の器です。
伊万里焼は、鎖国の時代に遠くヨーロッパまでも輸出され珍重された伊万里の誇りです。
このお店では、名物「伊万里焼饅頭」をはじめ、「古窯の里」「古伊万里」「陶磁の道」など陶器に着想を得た和菓子、洋菓子が製造販売されています。
街角の小さな美術館のウィンドは、陶磁の道(セラミックロード)の起点、伊万里のロマンをあそび心を持って演出しているのです。
Posted by 渋柿 at 14:50 | Comments(0)
2009年02月01日
「尾張享元絵巻」最終回
のどかに鶯が鳴く。
「われ等は、似ておるのだなあ」
「はっ?」
「東照大権現様の御血(おんち)じゃ」
「御血・・」
「似ておる。しかし違う。ゆえに相想い、相憎んだ」
「・・御意」 吉宗の想いは、宗春の想いであった。
「そちはいくつじゃ」
「当年、四十三にあいなります」
「永かろうなあ」
「は?」
「これからのことよ。じゃが、やすきに付くことは断じて許さぬ!」その声は、凛然としていた。
「死ぬことは断じて許さぬ。そちは余よりはるかに若い。見よ。見届けよ。我らがまつりごとの結末を」
「畏れながら、それには百の齢(よわい)をもちましても足らぬかと」
花弁(はなびら)が、座敷のうちにも、数片舞いこんできた。春風が二人の頬をなぶる。しばし、無言で同じ花吹雪(ふぶき)をながめる。
「これが、今生の別れとなろう。体をいとえよ」吉宗は下座に下る。
宗春は上座に直り、手を叩いて小姓を呼ぶ
「加納殿のお帰りじゃ」
「これにてお暇いたしまする」吉宗は平伏した。
「うむ、上様に、良しなに」
目で、ご配慮ありがとうございました、と語る。
このとき心から、肉親の兄たちにも感じたことのない「血の通った」暖かさを感じた。襲封直後の“ご対顔”のときに感じた親しみ―運命は皮肉であった。
尾張には戻されたものの、宗春の幽閉は死ぬまで、二十四年の永きに及んだ。
三百年の歳月。
吉宗は揺らぎかけた徳川幕府を建て直した名君として、また宗春も江戸、京大坂と並ぶ中京名古屋の繁栄の礎を築いたこれも名君として、その名は不朽である。
享元絵巻と共に。
「われ等は、似ておるのだなあ」
「はっ?」
「東照大権現様の御血(おんち)じゃ」
「御血・・」
「似ておる。しかし違う。ゆえに相想い、相憎んだ」
「・・御意」 吉宗の想いは、宗春の想いであった。
「そちはいくつじゃ」
「当年、四十三にあいなります」
「永かろうなあ」
「は?」
「これからのことよ。じゃが、やすきに付くことは断じて許さぬ!」その声は、凛然としていた。
「死ぬことは断じて許さぬ。そちは余よりはるかに若い。見よ。見届けよ。我らがまつりごとの結末を」
「畏れながら、それには百の齢(よわい)をもちましても足らぬかと」
花弁(はなびら)が、座敷のうちにも、数片舞いこんできた。春風が二人の頬をなぶる。しばし、無言で同じ花吹雪(ふぶき)をながめる。
「これが、今生の別れとなろう。体をいとえよ」吉宗は下座に下る。
宗春は上座に直り、手を叩いて小姓を呼ぶ
「加納殿のお帰りじゃ」
「これにてお暇いたしまする」吉宗は平伏した。
「うむ、上様に、良しなに」
目で、ご配慮ありがとうございました、と語る。
このとき心から、肉親の兄たちにも感じたことのない「血の通った」暖かさを感じた。襲封直後の“ご対顔”のときに感じた親しみ―運命は皮肉であった。
尾張には戻されたものの、宗春の幽閉は死ぬまで、二十四年の永きに及んだ。
三百年の歳月。
吉宗は揺らぎかけた徳川幕府を建て直した名君として、また宗春も江戸、京大坂と並ぶ中京名古屋の繁栄の礎を築いたこれも名君として、その名は不朽である。
享元絵巻と共に。
Posted by 渋柿 at 15:21 | Comments(0)