2009年06月11日
「伏見桃片伊万里」10
汚れてはいるが、母子とも顔立ちは整い、言葉遣いにも品があった。お菰の境遇に落ちるには、仔細があったらしい、と圭吾は思った。
「お足は、またでいいよ」
「お菰から金は取れねえよ」隼人が横から大声を出した。
「隼人!」
「そのうち、また発作は起きる。安心しな、そんときゃよ、また、ここに来りゃいい。立派なお医者様が二人、必ず診てくれる筈さ」
「お前!」
圭吾と慎一郎が必死の処置をしている間も、隼人は土間の台所辺りを徘徊していた。「おい、焼酎は消毒用だぞ」と声はかけたが、馬耳東風だった。
「喘息に傷口の消毒はなかろう」
「勝手にしろ!あとで買って返せよ」
「馬鹿!こいつ酒屋にやった日にゃ剣呑だ」
全く・・とは思ったが、それ以上かまっている余裕はなかった。それをいいことに・・台所の焼酎まで呑尽くしたらしい。
「あの、これを」母親が、黄ばんだ手拭の包みを差し出した。「お恥ずかしゅうて。こんなんしか。お願い、受けてくだはいまへんやろか、伏見たら伊万里のなんたらやて、貰うたんどすけど」
母親が手拭を開いた。磁器?もしや高価な品か?寄席の噺のような―期待は、外れた。
(なんのことだ)ぼってりと厚い。
本来薄く繊細であるべき伊万里とは似ても似つかぬ、大小二つの鉢であった。いや、どんぶり鉢というべきか。
「こりゃいい」隼人が嗤った。「わはは、まったく、こりゃあいいぜ。おい圭吾、お前が貰っとけ。ここは元々お前の家だしなあ」
「好い加減にしろ!」
二つとも同じ窯で焼かれた、本来は白磁に藍の染付であろう。だが全体に赤みがあり、点々と紅斑が入っている。描画の線も不鮮明で、本来鮮やかな藍色に仕上がらねばならぬはずが、紅い。絵も稚拙で、何を描いているのかはっきりしない。
(蛸唐草とも違う、なあ。はて?)
「そう、伏見か」口の中の呟きであった。
(くらわんか、か)
「お足は、またでいいよ」
「お菰から金は取れねえよ」隼人が横から大声を出した。
「隼人!」
「そのうち、また発作は起きる。安心しな、そんときゃよ、また、ここに来りゃいい。立派なお医者様が二人、必ず診てくれる筈さ」
「お前!」
圭吾と慎一郎が必死の処置をしている間も、隼人は土間の台所辺りを徘徊していた。「おい、焼酎は消毒用だぞ」と声はかけたが、馬耳東風だった。
「喘息に傷口の消毒はなかろう」
「勝手にしろ!あとで買って返せよ」
「馬鹿!こいつ酒屋にやった日にゃ剣呑だ」
全く・・とは思ったが、それ以上かまっている余裕はなかった。それをいいことに・・台所の焼酎まで呑尽くしたらしい。
「あの、これを」母親が、黄ばんだ手拭の包みを差し出した。「お恥ずかしゅうて。こんなんしか。お願い、受けてくだはいまへんやろか、伏見たら伊万里のなんたらやて、貰うたんどすけど」
母親が手拭を開いた。磁器?もしや高価な品か?寄席の噺のような―期待は、外れた。
(なんのことだ)ぼってりと厚い。
本来薄く繊細であるべき伊万里とは似ても似つかぬ、大小二つの鉢であった。いや、どんぶり鉢というべきか。
「こりゃいい」隼人が嗤った。「わはは、まったく、こりゃあいいぜ。おい圭吾、お前が貰っとけ。ここは元々お前の家だしなあ」
「好い加減にしろ!」
二つとも同じ窯で焼かれた、本来は白磁に藍の染付であろう。だが全体に赤みがあり、点々と紅斑が入っている。描画の線も不鮮明で、本来鮮やかな藍色に仕上がらねばならぬはずが、紅い。絵も稚拙で、何を描いているのかはっきりしない。
(蛸唐草とも違う、なあ。はて?)
「そう、伏見か」口の中の呟きであった。
(くらわんか、か)
Posted by 渋柿 at 11:43 | Comments(0)