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Posted by さがファンブログ事務局 at 

2009年09月19日

「中行説の桑」21

「面白い?それだけの理由で?」
「折角嫁ぐのです、背の君に気に入られたいし、何か面白い手土産を持参したいではありませんか」
「手土産・・でございますか。それにしてはちと品が物騒でございますまいか」
「でもねえ、女は誰でも、一生に一度くらい絹を纏ってもよいのではありませんかねえ。漢の地でも、匈奴の民でも」
「匈奴の・・下々でも、でございますか」
「ええ、嫁ぐ晴れの日くらい誰も絹の花嫁衣裳が纏えるほどには、彼の地でも作れたらと。夢でしょうかねえ。大丈夫、そちに迷惑はかけませんよ。万一事が顕われても、けっしてそなたの名は出しません」
「公主様・・」
「もうすぐ燕から、老親を呼び寄せるそうですね。分っています。そなたが関わったことが顕われたら、都に家を賜うどころか、そなたの親に嘆きを見せることにもなりかねませんからね」
「匈奴の背の君への、手土産・・」
 一瞬、やはり幼い娘か、と思った。老上単于は父冒頓単于のもと太子時代が長く、即位したばかりとはいえ三十路半ばの年齢である。すでに何人もの妻妾を持ち、公主と同年輩の息子もいるという。
(だが、そういう事情を知らぬはずはない) そういう相手との、政略そのものの今回の輿入れであった。
公主の勝気そうな瞳は「長城の外に嫁ぐのに、受身に流されるだけではいやだ。その中にあっても、なお我が手で幸せを招きたい」という意志を語っていた。
「なぜ、私に無理難題を仰るのですか」
「酪を作れたからですよ」
「酪?」
「ええ、酪です。この長楽宮でとにかく匈奴の酪を作れる人を探そうと思いました。酪を作れる人なら・・私の気持ちをきっと分ってくださると」
 今は司膳部の料理人も「匈奴の酪」の作り方を覚えて、公主の注文に常時応じている。
「公主様!」
(私と同じく・・きっと燕の地で、匈奴の人間と知り合われたのだろう。それも酪の湯を振舞われるほど、親しく)中行説は、うら若い公主の、か細い肩を見た。(大丈夫であろうか、気性はしっかりしておられるが・・お体は余りお丈夫ではないような)
 匈奴の住む地は、燕の地より更に寒いと聞いている。
  


Posted by 渋柿 at 18:31 | Comments(4)