スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新の無いブログに表示されています。
新しい記事を書くことで広告が消せます。
  

Posted by さがファンブログ事務局 at 

2009年09月17日

「中行説の桑」18

 もっとも匈奴の地では練乳・発酵乳・バターと様々な種類の「酪」が生産・消費されてはいたのであろう。ただ交易の品としてはある程度保存が効くものでなければならぬ。その関係上、ありよう交易相手の燕人には、この酪だけが「酪」と認知されていたに過ぎない。
「陛下のあのお優しいご気性じゃ。よんどころなく誰かを嫁がせるにしてもなあ、嫌がる娘を無理矢理とは、なさりたくなかったのでなあ。自ら名乗り出た王女があって、陛下もほっとしておられる。いや、この公主様、さすが国境の燕育ちだけに匈奴のことにもお詳しいし、自分から申し出られただけあって、さほどは・・悲しんでもおられぬようじゃ」
「そうですか」
「中行説、その匈奴の酪、作れるか?」
「はあ。子供の頃、家で蚕を飼っておりました。交易で来ていた匈奴の男に簡単な話は聞いたことがありますが・・」
「頼む、酪を作ってみてくれ。上林苑の令(長官)から牛の乳は取り寄せてある」
 上林苑とは秦の始皇帝が長安の西に作った広大な庭園である。狩もでき、牛馬を飼う牧場、虎園という一種の動物園まであった。その宮中の司膳部に上林苑から届く牛乳を、自由に使ってよいというのである。
「何せ、陛下の思し召しじゃからなあ」
「陛下の?」
「若い身空で、はるばる塞の外へ嫁ぐ不憫な娘、せめてそれまではできる限り望みを叶えるように、との」
「できるかどうかわかりませんが、やってみましょう」
「頼むぞ。酪が出来るまで、他の仕事はせずによい」肩を叩き趙沢は立ち去りかけ、つと足を停めた。「そうじゃ、忘れておった」
「はあ」
「来年の春、そなたも宮の外に休息の館をもてることになったぞ」
  


Posted by 渋柿 at 20:19 | Comments(2)