2009年01月24日
「尾張享元絵巻」18
『また、国丸の旗幟を町人に見せたことを咎(とが)められたが、旗幟を町人に見せてはならぬという法度(はっと)など、躬は聞いたこともないぞ」 背筋を貫く快感を、宗春は感じた。気分の高揚のままに、言葉を続ける。
「幕府への嫡子の披露は、形式であろう。嫡子か否かは、産まれたときから判っている。その嫡子の節句をどう祝おうと、将軍家にとやかくいわれる筋合いはない」
「殿!」堪りかねた傍らの竹腰正武が声をあげた。
宗春はこれも白扇で制する。書院の人声が、暫く絶える。
不如帰が、続けざまに鳴く。
宗春の凛(りん)とした声が、沈黙を破った。
「幕府の倹約令を守らず、奢侈遊蕩にふけったとのお叱りもあったが、なるほど、躬の倹約が表に現れぬので、そういうお叱りになったのであろう。・・それも致し方ない。上様は、倹約というものが如何(いか)なるものか、根本の儀を履き違えられ、誠の倹約をご存知ないゆえのう」
「とっ殿!」竹腰が悲鳴をあげた。何という放言!
宗春はかまわず続ける。
「今の天下では、諸大名、旗本、小身の者まで会えば倹約、倹約と挨拶代わりにしておる。躬は、口先だけのことが嫌いじゃ。倹約を口にすることは少ないが、倹約、倹約と唱えておる者たちのように、町人に借金をしたり、年貢を重くして百姓を苦しめた覚えはない」声にならない悲鳴と共に、竹腰は固く瞑目した。
(やんぬるかな)
「そも、今の世では、領主が百姓から、生かさぬよう殺さぬよう富という富を吸い上げておる。領主が倹約して、その富をひしと抱え込めば、天下万民が貧しさに喘(あえ)ぐことになるではないか。躬は、上様のいわれる華美、放縦なる振る舞いによって、富を天下万民に返しておるのじゃ」
宗春が言葉を切っても、しばし、誰も何も言わなかった。
倹約、倹約と封建領主が吸い上げた富をそのままに、生活を切り詰めれば、富の社会的還流を怠ることになる。領主の奢侈、華美は不道徳のようであるが、富を下々に還元してこそ社会の公正に寄与する・・まさに爆弾発言であった。
「幕府への嫡子の披露は、形式であろう。嫡子か否かは、産まれたときから判っている。その嫡子の節句をどう祝おうと、将軍家にとやかくいわれる筋合いはない」
「殿!」堪りかねた傍らの竹腰正武が声をあげた。
宗春はこれも白扇で制する。書院の人声が、暫く絶える。
不如帰が、続けざまに鳴く。
宗春の凛(りん)とした声が、沈黙を破った。
「幕府の倹約令を守らず、奢侈遊蕩にふけったとのお叱りもあったが、なるほど、躬の倹約が表に現れぬので、そういうお叱りになったのであろう。・・それも致し方ない。上様は、倹約というものが如何(いか)なるものか、根本の儀を履き違えられ、誠の倹約をご存知ないゆえのう」
「とっ殿!」竹腰が悲鳴をあげた。何という放言!
宗春はかまわず続ける。
「今の天下では、諸大名、旗本、小身の者まで会えば倹約、倹約と挨拶代わりにしておる。躬は、口先だけのことが嫌いじゃ。倹約を口にすることは少ないが、倹約、倹約と唱えておる者たちのように、町人に借金をしたり、年貢を重くして百姓を苦しめた覚えはない」声にならない悲鳴と共に、竹腰は固く瞑目した。
(やんぬるかな)
「そも、今の世では、領主が百姓から、生かさぬよう殺さぬよう富という富を吸い上げておる。領主が倹約して、その富をひしと抱え込めば、天下万民が貧しさに喘(あえ)ぐことになるではないか。躬は、上様のいわれる華美、放縦なる振る舞いによって、富を天下万民に返しておるのじゃ」
宗春が言葉を切っても、しばし、誰も何も言わなかった。
倹約、倹約と封建領主が吸い上げた富をそのままに、生活を切り詰めれば、富の社会的還流を怠ることになる。領主の奢侈、華美は不道徳のようであるが、富を下々に還元してこそ社会の公正に寄与する・・まさに爆弾発言であった。
Posted by 渋柿 at 08:06 | Comments(0)