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Posted by さがファンブログ事務局 at 

2009年01月17日

「尾張享元絵巻」11

 昨日も獲物が多かった。気分よく主従で杯を交わしていると、近習の千村(ちむら)親(しん)平(ぺい)が遠慮がちに茶室の縁の下にうずくまった。
「何か?」織部が尋ねる。
「伊吹屋が・・参っております」
「伊吹屋とな」
宗春も杯を置く。
「何かまた持って参ったか?」
「は、荷車にて千両箱を十」
 一万両である。
「是非に、お殿さまにお目にかかりたいと申しておりますが・・」
「ふうむ・・」宗春はまた杯を含んだ。
「土産が土産じゃ。すげなくもできまい。これへ通せ」
「御深井の丸に・・商人・・?」
「伊吹屋とは、前にもここでおうたわ。かまわぬ、ここへ連れて参れ」
「はっ」
親平は応えて立ち上がった。

この夏の初対面の後、宗春は伊吹屋の過去を横目だけでなく、藩主直属の隠密にも更に詳しく調べさせている。
「奥州仙台城下で、薬種問屋の番頭をしておりました」
 そう隠密の頭から報告を受けたのは、つい数日前であった。
「薬屋の番頭であったか」
 そこから薬湯の無尽まがいを思いついたか、と宗春は笑った。
「詳しゅうは、この報告書に。元は浪人というは確かなようで。仙台一の大店蓬莱屋の主が商用で江戸に参りました折、掏られた財布を取り戻したのが今の伊吹屋だったとか。算勘に明るく機転が利きますもので主人はすっかり気に入り、仙台に連れ帰ったらしゅうございます」
「そこで、両刀を捨てたか」
「初めは蓬莱屋の客分というか居候のようにして厄介になっておったそうですが、自分から奉公したいと主人に頼んだそうで。それも小僧並でよいから商売を覚えさせてくれと」
「そこで商売を呑み込んで、尾張で一儲けしておるわけか」
「はい。仙台の蓬莱屋には今も盆暮れ便りを欠かしておりません」
「伊吹御神湯の商売の元手も、蓬莱屋の融通か?」
「いえ、仙台に参りましたものの調べでは、蓬莱屋は伊吹屋の商いのやり方は知らぬようで」
「ただの薬種問屋をやっていると思っているのだな」
「はい。いやしくも伊達陸奥守様ご城下一の大店が、騙りまがいに元手を降ろすとも思えませぬ」
「ということは、蓬莱屋の引き金(退職金)と、奉公中の蓄えを当てたのであろうのう」
「そう、思われます」
「ご苦労であった」
 渡された報告書は、仙台での探索も含み、詳細であった。
  


Posted by 渋柿 at 16:48 | Comments(0)