2009年01月19日
「尾張享元絵巻」13
「伊吹御神湯を銀一枚で買ってくださっていた方々は分限者(ぶげんしゃ)ばかりにて、銀一枚の出費はいわば分相応。しかしこれからは結構に過ぎると、取り締まられましょう」
伊吹屋は、今度は宗春に杯を注す。
「倹約とは、金を出せる者がその金を出して物を買うも、その物がはなはだ高値ならばまかりならんことだ、と申すか」
「将軍様の思し召しでは、雛(ひな)道具から髪飾り、絹(きぬ)綾(あや)まで、どのような身分、分限者も結構、高値な物は買えぬ。つまり商人が売ることはできなくなります。手前のような傷だらけの脛(すね)持つものは、商売替えに如(し)くはございません」
「売れなくなるぞ」
宗春は皮肉に笑った。
銀一枚という値に、客は有難味を感じて「効く」と争って買ったのである。原価近くで売れば、その有難味はなくなる。今までの客の多くに見向きもされなくなるだろう。
薬九層倍という。化粧品も然(しか)り。美や健康という夢を買う値段は、高いほど「効く」はずだとの、客の願いが潜在している。
「いたし方ございませぬ」
酔いが回って気が大きくなったか、伊吹屋は、宗春の面前で炙り猪肉を取り食らいついた。
「殿様より将軍様のほうが強うございます」
「そうじゃの」
宗春も猪肉に手を伸ばす。
「殿様も商売替え・・いえ、宗旨替えをなされました方が・・」
「こやつ、いい居る」
酒を呷った。
「織部よ、躬は将軍家の逆鱗に、もう触れておろうのう」
「はあ」
織部は困惑して、先ほどから手酌で数杯、杯を干している。
当たり前だ。
「濡れ手に粟の儲けを注ぎ込んだ報謝宿も土地の分限者などが引き受けてくれて、それぞれ一人立ちしてゆく目途(めど)はつきました。今日持参しました一万両、御金蔵に蓄えられて倹約の証になされるもよし」
(こやつ、躬に恭順をと諫めておるのか・・)
「将軍家相手の、天下の大合戦。矢(や)銭(せん)(軍資金)にも、足りまするぞ」
織部が、伊吹屋の言葉尻を横から引き取った。
伊吹屋は、今度は宗春に杯を注す。
「倹約とは、金を出せる者がその金を出して物を買うも、その物がはなはだ高値ならばまかりならんことだ、と申すか」
「将軍様の思し召しでは、雛(ひな)道具から髪飾り、絹(きぬ)綾(あや)まで、どのような身分、分限者も結構、高値な物は買えぬ。つまり商人が売ることはできなくなります。手前のような傷だらけの脛(すね)持つものは、商売替えに如(し)くはございません」
「売れなくなるぞ」
宗春は皮肉に笑った。
銀一枚という値に、客は有難味を感じて「効く」と争って買ったのである。原価近くで売れば、その有難味はなくなる。今までの客の多くに見向きもされなくなるだろう。
薬九層倍という。化粧品も然(しか)り。美や健康という夢を買う値段は、高いほど「効く」はずだとの、客の願いが潜在している。
「いたし方ございませぬ」
酔いが回って気が大きくなったか、伊吹屋は、宗春の面前で炙り猪肉を取り食らいついた。
「殿様より将軍様のほうが強うございます」
「そうじゃの」
宗春も猪肉に手を伸ばす。
「殿様も商売替え・・いえ、宗旨替えをなされました方が・・」
「こやつ、いい居る」
酒を呷った。
「織部よ、躬は将軍家の逆鱗に、もう触れておろうのう」
「はあ」
織部は困惑して、先ほどから手酌で数杯、杯を干している。
当たり前だ。
「濡れ手に粟の儲けを注ぎ込んだ報謝宿も土地の分限者などが引き受けてくれて、それぞれ一人立ちしてゆく目途(めど)はつきました。今日持参しました一万両、御金蔵に蓄えられて倹約の証になされるもよし」
(こやつ、躬に恭順をと諫めておるのか・・)
「将軍家相手の、天下の大合戦。矢(や)銭(せん)(軍資金)にも、足りまするぞ」
織部が、伊吹屋の言葉尻を横から引き取った。
Posted by 渋柿 at 14:59 | Comments(0)