スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新の無いブログに表示されています。
新しい記事を書くことで広告が消せます。
  

Posted by さがファンブログ事務局 at 

2010年01月15日

「続伏見桃片伊万里」23

「でも、ほんま仲よう・・」
「そう、俺の子じゃないっていえば、それはやっぱり違うな。連れ子だろうが血がつながってなかろうが、やっぱりお千代は俺の娘だ」
「こいつが滅茶苦茶になって死にぞこなった晩、お千代ちゃんが喘息の発作で、お登世さんと駆込んで来てたんだ。まあ、一口じゃいえんが、こいつが今生きてんのは、お登世さんとお千代ちゃんのお陰さ」
 圭吾はその修羅場を思い出していた。
「と、もう一人な」
 圭吾が添えた言葉に、隼人は呟く。
(その話はまだは早かろう)
(ああ)
 お光の視線がゆっくりと上がった。
「血がつながらんでも、本当の親子」
「播磨屋のお内儀も、お子、可愛がっておるのだろう?それがわかってるから、あんたも庇うた。違うか」
「へえ」
「酒毒に浸されているうちは、悪く悪く、物事が歪んでしか見えぬものじゃが。俺もそうだった。でもなあ、見守ってやれ、遠くから。お千代の父親は流り病で死んだそうだが、きっとあの世で俺達のこと、苦笑いして見てる、と思う」
(おい、説教はまだ早いんじゃ―)
(まあ、この人ならいいだろう)
 お光は立ち上がった。緩慢な動作だった。
「後片付け、させてもらいます」
 覚束ない手つき足取り、それでも膳を下げて御勝手に運ぶ。
「急に、無理することはないぞ」
「へえ」
 背を向けて、お光は洗物をはじめた。
「全く・・同じだな、お前んときと」
 圭吾が隼人に笑いかけた。
「ああ、まず自分から何かしようって気力が出れば、かなりいい傾向だ」
「お前も、最初はあんなに危なっかしかったな」
 お光を隼人に託して、圭吾が南禅寺草川町に戻ったのは、その翌日だった。
  


Posted by 渋柿 at 17:03 | Comments(0)

2010年01月15日

「続伏見桃片伊万里」22

「お光さん、あんたはまだ酒毒も浅い。俺あ暫くは畳の毛羽、日がな一日毟ってばかりだった、なあ圭吾」
 薬物依存によく見られる同じ動作の繰り返し。
 現在の医学では常同行動と呼ばれている。
「ああ、どうせならあの調子で数珠石でも磨きゃあ手間賃くらいにゃあなったのに。人の借り家の畳、三枚も駄目にしやがって」
「畳?毛羽毟り?」
「俺も酒毒さ。お光さん、あんたはあの頃の俺よりずっとましなんだよ。俺と来たら酒切れて」
「刃物あ振り回すし、反吐はいて、小便も漏らしたな」
「この野郎、そこまでいわんでもいいだろうに。まあ、そりゃ本当のことだ。だから今も俺あこいつに頭があがらん」
「いや、近頃は随分・・頭が高くなって来たぞ」
 ぷっと、お登世が吹き出した。
(おっと、妻子の前だった)
「あんたら、嫁菜摘みに行きまひょか」
 お登世は子供達に笑いながら声をかけた。
「お千代、笊持ってきて」
「慎もいく、いく」
「お昼に、若菜の羹しまひょ、ほな、ちょっといって来ます」
(さすが夫婦だ)
 見事な呼吸だった。
 膳もまだ下げていない。
 姉と弟は、膳がそのままなのをちょっと不審そうに見ていたが、箸を置くと手を繋いで後を追った。
「お子たち、元気どすな」
 お光は少し辛そうにいった。
「一人は、実をいえば俺の子じゃないがね」
 隼人は、さらりと口にする。
「えっ」
「お千代は、お登世の連れ子さ」
  


Posted by 渋柿 at 05:21 | Comments(0)