2015年05月13日
鯰酔虎伝 8
「子供の頃テレビで見たよ。落語てえのに歌ってばかりだったねえ」
てやんでえ、落語ってのは臍の曲がった野郎が、世の中斜に眺めて演るもんだ。古典落語にだって「片棒」に「野ざらし」、歌って踊る噺はあらあ。俺の一寸ばかし当世風の音曲噺も一頃は大受けして、テレビ局掛け持ちで大変だったんだぞ。師匠より売れてた時期だってあったんだ。面白い様に稼げて、所帯も持てた。ちいと酒でプロデューサーとかに絡んで、全部降ろされちまったけど。
「まだ生きてたのかい」
まあ、売れるのも早かった分、落ちるのも早かった。挙句寄席で立ち上がって踊って、圓幽門下破門だとよ。
「あの京の輔と並ぶ、御前で落語まで演った圓幽の弟子が、ねえ・・落ちぶれたもんだ」
師匠が上手過ぎたから、臍曲りの弟子は道逸れちまったんだよ。
破天荒の京の輔、本格端正の圓幽。昭和三十・四十年代、名人の双璧、長楽亭京の輔と三道楽圓幽は落語の黄金時代を築き上げた。
破門したのは圓幽で、客分に引き取ってくれたのが京の輔。成行き、昭和の二大名人両方師匠に持つ事になっちまった。当て付けかって随分騒がれた。引き取り手もなかったから、京の輔が太っ腹見せただけなのによ。
(無茶な奴にゃあ京の輔の方が向いてる、か)
それはその通りだったけど・・古典至上、それが神様みてえに上手かった圓幽師匠の事、俺は破門されたって好きだったんだ。尖がって他人も手前も傷付けてたとこなんか、俺と似てたしよ。
芸は確かに圓幽の方がずっと上だったけど、人気じゃ上野動物園のパンダにも負けちまった。同じ日に死んだのに、新聞の扱いパンダより小さかったのは、悔しかったなぁ。
「じゃ、まずは一席やって貰おうか」
「こちらで・・ですか」
「ああ、こんな家だけど六畳四畳半の続き座敷はあらあな。裏の連中呼んどくから、今夜八時、落語会やっとくれ」
師匠、引っ越し蕎麦代わりですよ、朝顔が脇から囁く。馬鹿にしやがって。噺家稼業、ちゃんとひと様のお足を頂ける俺の芸を、葉書か何かと間違えてやがる。
てやんでえ、落語ってのは臍の曲がった野郎が、世の中斜に眺めて演るもんだ。古典落語にだって「片棒」に「野ざらし」、歌って踊る噺はあらあ。俺の一寸ばかし当世風の音曲噺も一頃は大受けして、テレビ局掛け持ちで大変だったんだぞ。師匠より売れてた時期だってあったんだ。面白い様に稼げて、所帯も持てた。ちいと酒でプロデューサーとかに絡んで、全部降ろされちまったけど。
「まだ生きてたのかい」
まあ、売れるのも早かった分、落ちるのも早かった。挙句寄席で立ち上がって踊って、圓幽門下破門だとよ。
「あの京の輔と並ぶ、御前で落語まで演った圓幽の弟子が、ねえ・・落ちぶれたもんだ」
師匠が上手過ぎたから、臍曲りの弟子は道逸れちまったんだよ。
破天荒の京の輔、本格端正の圓幽。昭和三十・四十年代、名人の双璧、長楽亭京の輔と三道楽圓幽は落語の黄金時代を築き上げた。
破門したのは圓幽で、客分に引き取ってくれたのが京の輔。成行き、昭和の二大名人両方師匠に持つ事になっちまった。当て付けかって随分騒がれた。引き取り手もなかったから、京の輔が太っ腹見せただけなのによ。
(無茶な奴にゃあ京の輔の方が向いてる、か)
それはその通りだったけど・・古典至上、それが神様みてえに上手かった圓幽師匠の事、俺は破門されたって好きだったんだ。尖がって他人も手前も傷付けてたとこなんか、俺と似てたしよ。
芸は確かに圓幽の方がずっと上だったけど、人気じゃ上野動物園のパンダにも負けちまった。同じ日に死んだのに、新聞の扱いパンダより小さかったのは、悔しかったなぁ。
「じゃ、まずは一席やって貰おうか」
「こちらで・・ですか」
「ああ、こんな家だけど六畳四畳半の続き座敷はあらあな。裏の連中呼んどくから、今夜八時、落語会やっとくれ」
師匠、引っ越し蕎麦代わりですよ、朝顔が脇から囁く。馬鹿にしやがって。噺家稼業、ちゃんとひと様のお足を頂ける俺の芸を、葉書か何かと間違えてやがる。
Posted by 渋柿 at 12:27 | Comments(0)