2014年01月15日
初夏の落葉17
死なない奴はいない。そろそろ、心構えだけは必要だろう。左京の享年を、去年越えた。
今思えばかなり前から、変調は自覚していたんだろう。打ち上げでも飲まなくなってた。
それでいて、悲壮感や辛さを、最後まで微塵も見せなかった。誰にも真実を告げず、十数分のネタで、静かに高座を降りていった。
(綺麗事が過ぎまっせ、左京さん、ええかっこしいや・・か)
骨あげの時の柳小夢の呟きは、同い齢の同志を失った哀しみに溢れていた。
その小夢も翌年の晩秋、癌で散る。左京とほぼ同じ、死の十一日前まで高座に上がり、一時間を越える「地獄八景亡者戯」をやり遂げた。それが最後のネタとなった。
仲間に全て事情を明かし、途中で力尽きたら続きは頼むと、頭を下げていたそうである。楽屋に医者を待機させて、直前まで酸素吸入をしながらサゲまで語り切った。
大きな動きはなくとも、死後の世界を茶化しまくる噺に客は爆笑したという。
伝説の西口広場を彷彿とさせる芸人魂。左京を見届けた上での・・それが西の噺家、東とはまた違う、最後の高座の意地だったのだろう。
(左京の置き土産は、小夢さんだけじゃない)
俺達には勿論、若手にも強烈だった。稽古の時左京に貰った扇子や手拭いを、今も御守り代わりにしている若手は多い。カゼとマンダラは侍でいえば両刀、噺家の魂なのだ。
最後に楽屋入りした時は、もう自分で足袋も履けなくなっていた。左京がおいそこの二つ目、頼むよ、なんて嘯いたのはそれが初めてだった。居合わせた桂家道介が、帯まで結んでやっていた。
さっきはありがとよ・・「六尺棒」で使ったばかりの噺家の魂を、左京は道介に託した。
その道介は、葬式の日、寄席の客席で左京の姿を確かに見たという。
真打昇進を果たした道介が、披露興行の演目に混ぜた新作は、寄席の度肝を抜いた。
(代演で高座に出た中堅が癌で突然死、生涯最後の高座が前座噺入門級「寿限無」という、情けない事に・・か)
持ちネタに定着したから何度も聞いた。よくできている。虚実入り混じって芸人の悲哀を描き、しかも泣かせない。大いに笑わせる。
近頃は忙しい合間を縫い、癌検診に行く噺家も増えた。寄席内外にカミングアウトして、抗癌剤を使いながら高座を勤める者もいる。
(不謹慎ていう人もいるけど・・)
古典落語だって、死や葬式を洒落のめしている。建前の道学蹴飛ばすのが落語だ。化けたな道介・・左京ならきっとそういうだろう。根っからの芸人だったから。
今思えばかなり前から、変調は自覚していたんだろう。打ち上げでも飲まなくなってた。
それでいて、悲壮感や辛さを、最後まで微塵も見せなかった。誰にも真実を告げず、十数分のネタで、静かに高座を降りていった。
(綺麗事が過ぎまっせ、左京さん、ええかっこしいや・・か)
骨あげの時の柳小夢の呟きは、同い齢の同志を失った哀しみに溢れていた。
その小夢も翌年の晩秋、癌で散る。左京とほぼ同じ、死の十一日前まで高座に上がり、一時間を越える「地獄八景亡者戯」をやり遂げた。それが最後のネタとなった。
仲間に全て事情を明かし、途中で力尽きたら続きは頼むと、頭を下げていたそうである。楽屋に医者を待機させて、直前まで酸素吸入をしながらサゲまで語り切った。
大きな動きはなくとも、死後の世界を茶化しまくる噺に客は爆笑したという。
伝説の西口広場を彷彿とさせる芸人魂。左京を見届けた上での・・それが西の噺家、東とはまた違う、最後の高座の意地だったのだろう。
(左京の置き土産は、小夢さんだけじゃない)
俺達には勿論、若手にも強烈だった。稽古の時左京に貰った扇子や手拭いを、今も御守り代わりにしている若手は多い。カゼとマンダラは侍でいえば両刀、噺家の魂なのだ。
最後に楽屋入りした時は、もう自分で足袋も履けなくなっていた。左京がおいそこの二つ目、頼むよ、なんて嘯いたのはそれが初めてだった。居合わせた桂家道介が、帯まで結んでやっていた。
さっきはありがとよ・・「六尺棒」で使ったばかりの噺家の魂を、左京は道介に託した。
その道介は、葬式の日、寄席の客席で左京の姿を確かに見たという。
真打昇進を果たした道介が、披露興行の演目に混ぜた新作は、寄席の度肝を抜いた。
(代演で高座に出た中堅が癌で突然死、生涯最後の高座が前座噺入門級「寿限無」という、情けない事に・・か)
持ちネタに定着したから何度も聞いた。よくできている。虚実入り混じって芸人の悲哀を描き、しかも泣かせない。大いに笑わせる。
近頃は忙しい合間を縫い、癌検診に行く噺家も増えた。寄席内外にカミングアウトして、抗癌剤を使いながら高座を勤める者もいる。
(不謹慎ていう人もいるけど・・)
古典落語だって、死や葬式を洒落のめしている。建前の道学蹴飛ばすのが落語だ。化けたな道介・・左京ならきっとそういうだろう。根っからの芸人だったから。
Posted by 渋柿 at 16:06 | Comments(0)