2010年01月10日
「続伏見桃片伊万里」18
相客の視線が集まったが、隼人が猪口にゆっくり瓢を傾けると、
(姐さん、いい機嫌やわ)
(一緒の男衆、二人とも医者髷やけど・・まあお医者はんかてたまには女連れで舟遊びもなさるわなあ)
と、てんでんにまた、眠る者は眠り、しゃべるものは道連れと話を再開する。
(うまいものだ)
隼人は酒を注ぐ。
厳密にいうと酒毒に完治ということがない。
酒精で一旦変質してしまった脳髄は、また酒精の刺激を受けると簡単に元にもどってしまう。
断酒において、人が己の意思で制御できるのは酒を口にする直前までのことであるという。
一口酒を口にすればまたも堕ちてゆき、かなりの確率でかつての酒毒地獄にもどってしまう。
これは医者であろうと、隼人も決して例外ではないのだ。
そのことを当然熟知する隼人は、瓢の酒を一滴も口にしてはいない。
だが、実に巧妙に瓢を扱うので、お光と差しつ差されつのようにしか見えない。
そうして辛抱強くお光の酔いの繰言を聞いている。
「うちは堪忍したんどっせ!」
お光は吼えた。
「お店さまの不注意や、それでお筆が死んでも、堪忍したんや、赦したんや」
「ああ、わかるぞ、わかるとも」
隼人は瓢を圭吾に向けながら応えた。
(おい、少し手伝え)
目配せに渡されていた猪口を出したが、
(ああぁ・・)
噫がのど元までこみ上げる。
圭吾は天性の下戸、一合どころか五勺の酒で動悸がする始末だ。
隼人が注いだ酒を舐める様に必死の思い出で、干した。
「大恩あるお店さま、だから庇うた、赦した。それなのに・・許さへん、うちはお店さまを絶対許さへん!」
己の中の堰は、切れてしまっていた。
お光は吼えまくった挙句、猪口を隼人の鼻先に突き出した。
「先生、酒、足らんわ」
お光は、隼人に自分の猪口を突き出した。
「いや、すまん。おつもりじゃ。最後の一雫までな、さっきこいつが飲んじまった」
(誰が・・だ)
圭吾は全身の力が、抜けた。
(姐さん、いい機嫌やわ)
(一緒の男衆、二人とも医者髷やけど・・まあお医者はんかてたまには女連れで舟遊びもなさるわなあ)
と、てんでんにまた、眠る者は眠り、しゃべるものは道連れと話を再開する。
(うまいものだ)
隼人は酒を注ぐ。
厳密にいうと酒毒に完治ということがない。
酒精で一旦変質してしまった脳髄は、また酒精の刺激を受けると簡単に元にもどってしまう。
断酒において、人が己の意思で制御できるのは酒を口にする直前までのことであるという。
一口酒を口にすればまたも堕ちてゆき、かなりの確率でかつての酒毒地獄にもどってしまう。
これは医者であろうと、隼人も決して例外ではないのだ。
そのことを当然熟知する隼人は、瓢の酒を一滴も口にしてはいない。
だが、実に巧妙に瓢を扱うので、お光と差しつ差されつのようにしか見えない。
そうして辛抱強くお光の酔いの繰言を聞いている。
「うちは堪忍したんどっせ!」
お光は吼えた。
「お店さまの不注意や、それでお筆が死んでも、堪忍したんや、赦したんや」
「ああ、わかるぞ、わかるとも」
隼人は瓢を圭吾に向けながら応えた。
(おい、少し手伝え)
目配せに渡されていた猪口を出したが、
(ああぁ・・)
噫がのど元までこみ上げる。
圭吾は天性の下戸、一合どころか五勺の酒で動悸がする始末だ。
隼人が注いだ酒を舐める様に必死の思い出で、干した。
「大恩あるお店さま、だから庇うた、赦した。それなのに・・許さへん、うちはお店さまを絶対許さへん!」
己の中の堰は、切れてしまっていた。
お光は吼えまくった挙句、猪口を隼人の鼻先に突き出した。
「先生、酒、足らんわ」
お光は、隼人に自分の猪口を突き出した。
「いや、すまん。おつもりじゃ。最後の一雫までな、さっきこいつが飲んじまった」
(誰が・・だ)
圭吾は全身の力が、抜けた。
Posted by 渋柿 at 06:34 | Comments(0)