2009年10月07日
「中行説の桑」56
五
「公主は召し上がられると、か?」 軍臣は、ほっとしたようにいった。
「それが・・出来れば粥に酪を加えて、と」
「わけもない」 軍臣は傍らの兵に、匈奴の言葉で何か命じた。心得て兵は自分達の天幕に向う。酪の壷を持ってくるのであろう。
「昼間は、侍女に看護をさせるのであろう」
「はい」
「朝餉を済ませたら狩にいく。付いて参れ」
「狩に・・私が」
「うん、ちょっと見せたいものもあるでなあ、どうじゃ」
「私、弓もろくに引けませぬが」
「兎や鳥は我等が獲る。心配は要らぬ」
匈奴の兵が、酪壷を下げて戻ってきた。用意されていた木の器に粥を盛り、大きな匙で三掬い、酪を落とす。軍臣に一礼して受け取った。
「では、待っておるぞ」粥を捧げて姚娥の許に戻ろうとする中行説の背に、軍臣は念を押した。
「美味しい」酪入り薤粥に手をつけた、一匙目の姚娥の声であった。
(熱もまだあられるのに・・)と呆れるほど健啖に、姚娥は器の粥をたいらげた。(やはり、匈奴の味がお好みなのだ)また、思う。(太子のご厚意なればこそ、食がお進みになるのだろうて)少し、寂しかった。
「美味しいですよ。中行説も早くおあがりなさい。侍女達にも食べさせて」
「はっ」
「心配要りません。おとなしくしております。薤の薬効を無駄にしてはなりませんもの」
朝餉を済ませた侍女達に姚娥の看護を任せ、中行説は道案内の長に事情を話して弓矢を借りた。
「それは・・匈奴の太子の狩にお供するのに、手ぶらでは格好が付きませんでしょうからなあ」長は快く弓と箙を貸してくれた。
箙には二十本ほどの矢が入っている。
「公主は召し上がられると、か?」 軍臣は、ほっとしたようにいった。
「それが・・出来れば粥に酪を加えて、と」
「わけもない」 軍臣は傍らの兵に、匈奴の言葉で何か命じた。心得て兵は自分達の天幕に向う。酪の壷を持ってくるのであろう。
「昼間は、侍女に看護をさせるのであろう」
「はい」
「朝餉を済ませたら狩にいく。付いて参れ」
「狩に・・私が」
「うん、ちょっと見せたいものもあるでなあ、どうじゃ」
「私、弓もろくに引けませぬが」
「兎や鳥は我等が獲る。心配は要らぬ」
匈奴の兵が、酪壷を下げて戻ってきた。用意されていた木の器に粥を盛り、大きな匙で三掬い、酪を落とす。軍臣に一礼して受け取った。
「では、待っておるぞ」粥を捧げて姚娥の許に戻ろうとする中行説の背に、軍臣は念を押した。
「美味しい」酪入り薤粥に手をつけた、一匙目の姚娥の声であった。
(熱もまだあられるのに・・)と呆れるほど健啖に、姚娥は器の粥をたいらげた。(やはり、匈奴の味がお好みなのだ)また、思う。(太子のご厚意なればこそ、食がお進みになるのだろうて)少し、寂しかった。
「美味しいですよ。中行説も早くおあがりなさい。侍女達にも食べさせて」
「はっ」
「心配要りません。おとなしくしております。薤の薬効を無駄にしてはなりませんもの」
朝餉を済ませた侍女達に姚娥の看護を任せ、中行説は道案内の長に事情を話して弓矢を借りた。
「それは・・匈奴の太子の狩にお供するのに、手ぶらでは格好が付きませんでしょうからなあ」長は快く弓と箙を貸してくれた。
箙には二十本ほどの矢が入っている。
Posted by 渋柿 at 22:28 | Comments(0)