2009年10月03日
「中行説の桑」47
足音がした。太子が娥姚の侍女と兵をつれて戻ってきたらしい。
「北に四里のところ、待っておるぞ」蘭牙は天幕を飛び出し、草原の闇に消えた。
漢の侍女たち三人は、中行説の直属の部下である。
「お疲れが昂じられただけだと思うが・・」説は、獣脂の灯に照らされた娥姚の面を示した。
「済まぬがそなた等、今宵はここで、交代で宿直(とのい)してくれぬか。匈奴の太子には私から頼んでおく」
蘭牙が、四里先で待っている。
「はい、お任せください。何かありましたらすぐお知らせいたします」
「宦官殿はとりあえずお体を休めてくださいませ」
「済まぬが、そうさせてもらおう」
歩みだして、床に娥姚の帽子が落ちているのに気付いた。蘭牙と天幕に運んだときに脱げ落ちたらしい。
拾う。(桑の種は、まだこの中に生きておる)
無意識にそれで、姚娥の耳飾りを包んだ。
匈奴の家来たちが戻るのに連れ立って、漢兵も数人、こちらへ移ってきた。娥姚の天幕の前の焚き火に薪を足し、不寝番の用意をする。
「宦官殿、公主様のお具合は?」
「・・眠っておられる」
「そうですか」
「匈奴の太子は?」
「あちらに」
軍臣は、もう一方の焚き火の前で部下に指示を与えていた。中行説は軍臣に天幕を借りる断りをいった。軍臣は無論快諾した。そして軍臣と暗黙の視線を交わし、説は月明かりの中蘭牙の消えた草原を辿った。
「肝が潰れました!」蘭牙は、潅木の御柳に繋いだ馬の傍らで焚き火をしていた。その火に近付き、中行説は呼びかけた。
「父母は堅固だぞ」蘭牙は、そっけなくいった。
「えっ、今でも燕で交易を?」
「ああ、戻ったばかりじゃ。父母も、兄姉も、その子達も。下の兄貴にもこの冬、やっと子どもが出来たそうだ。これでお前の甥姪は確か・・」
「五人になります」説は指を繰っていった。
「北に四里のところ、待っておるぞ」蘭牙は天幕を飛び出し、草原の闇に消えた。
漢の侍女たち三人は、中行説の直属の部下である。
「お疲れが昂じられただけだと思うが・・」説は、獣脂の灯に照らされた娥姚の面を示した。
「済まぬがそなた等、今宵はここで、交代で宿直(とのい)してくれぬか。匈奴の太子には私から頼んでおく」
蘭牙が、四里先で待っている。
「はい、お任せください。何かありましたらすぐお知らせいたします」
「宦官殿はとりあえずお体を休めてくださいませ」
「済まぬが、そうさせてもらおう」
歩みだして、床に娥姚の帽子が落ちているのに気付いた。蘭牙と天幕に運んだときに脱げ落ちたらしい。
拾う。(桑の種は、まだこの中に生きておる)
無意識にそれで、姚娥の耳飾りを包んだ。
匈奴の家来たちが戻るのに連れ立って、漢兵も数人、こちらへ移ってきた。娥姚の天幕の前の焚き火に薪を足し、不寝番の用意をする。
「宦官殿、公主様のお具合は?」
「・・眠っておられる」
「そうですか」
「匈奴の太子は?」
「あちらに」
軍臣は、もう一方の焚き火の前で部下に指示を与えていた。中行説は軍臣に天幕を借りる断りをいった。軍臣は無論快諾した。そして軍臣と暗黙の視線を交わし、説は月明かりの中蘭牙の消えた草原を辿った。
「肝が潰れました!」蘭牙は、潅木の御柳に繋いだ馬の傍らで焚き火をしていた。その火に近付き、中行説は呼びかけた。
「父母は堅固だぞ」蘭牙は、そっけなくいった。
「えっ、今でも燕で交易を?」
「ああ、戻ったばかりじゃ。父母も、兄姉も、その子達も。下の兄貴にもこの冬、やっと子どもが出来たそうだ。これでお前の甥姪は確か・・」
「五人になります」説は指を繰っていった。
Posted by 渋柿 at 15:50 | Comments(0)