2009年09月26日
「中行説の桑」33
目が覚めたとき、傍らにいたのは漢の兵一人だけだった。五人の道案内の将の中で一番若く、中行説とほぼ同年輩のように見える。もう、宿営の天幕も公主一行の姿もなかった。中行説は、天幕の内、牛の皮の上に寝かされていた。陽は、かなり高く登っている。
酔いつぶれた説を夜明け近く、あの匈奴の将がかついで連れてきたという。朝になっても目覚めぬ説に業を煮やし、道案内の長は案内人一人を残して出発してしまったのである。
頭が割れるように痛く、ひどく喉が渇いた。
「大分、ご馳走になったそうですな」説の顔を、案内人が覗いた。
「水、水を下され」
「ほれ、そう来るだろうと思いました」案内人が、皮の水筒を渡した。一気に飲んだ。
「それそれ、そういっぺんに飲みなさるな。これから隊に追いつくまで、半日は掛かりましょうで」案内人は渋い顔をした。
「申し訳ありませぬ」
「さあ、出掛けましょう」
「はい」
天幕を畳み、荷物を鞍につける。
「昨日宦官殿と一緒に飲んだのは、どなただかご存知ですか?」
先に自分の馬に跨った案内人が、笑みを含んでいった。
「いえ、存じません。単于の派遣された公主様護衛の長かと・・」
「太子じゃそうですぞ」
「ええっ!」
馬に乗りかけていた中行説は、鐙を踏み外してつんのめった。
(うへえ!)
昨日の自分の醜態を思い出した。顔から火が出る思いがした。
「太子とは、あの・・匈奴の」
「おう、老上単于の太子、軍臣様ですとよ。宦官殿は昨夜、太子を相手に大分おだを上げられたそうな」
「・・存じませんでした」
二日酔いのためばかりではない。羞恥心も加わり、心も身も最悪であった。
「行きまする」
案内人は馬を駆った。見失ったら一大事である。中行説は吐き気かつめまいに耐え、力を振り絞ってそれに続く。
酔いつぶれた説を夜明け近く、あの匈奴の将がかついで連れてきたという。朝になっても目覚めぬ説に業を煮やし、道案内の長は案内人一人を残して出発してしまったのである。
頭が割れるように痛く、ひどく喉が渇いた。
「大分、ご馳走になったそうですな」説の顔を、案内人が覗いた。
「水、水を下され」
「ほれ、そう来るだろうと思いました」案内人が、皮の水筒を渡した。一気に飲んだ。
「それそれ、そういっぺんに飲みなさるな。これから隊に追いつくまで、半日は掛かりましょうで」案内人は渋い顔をした。
「申し訳ありませぬ」
「さあ、出掛けましょう」
「はい」
天幕を畳み、荷物を鞍につける。
「昨日宦官殿と一緒に飲んだのは、どなただかご存知ですか?」
先に自分の馬に跨った案内人が、笑みを含んでいった。
「いえ、存じません。単于の派遣された公主様護衛の長かと・・」
「太子じゃそうですぞ」
「ええっ!」
馬に乗りかけていた中行説は、鐙を踏み外してつんのめった。
(うへえ!)
昨日の自分の醜態を思い出した。顔から火が出る思いがした。
「太子とは、あの・・匈奴の」
「おう、老上単于の太子、軍臣様ですとよ。宦官殿は昨夜、太子を相手に大分おだを上げられたそうな」
「・・存じませんでした」
二日酔いのためばかりではない。羞恥心も加わり、心も身も最悪であった。
「行きまする」
案内人は馬を駆った。見失ったら一大事である。中行説は吐き気かつめまいに耐え、力を振り絞ってそれに続く。
Posted by 渋柿 at 18:37 | Comments(0)