2009年09月06日
「中行説の桑」8
「じゃ小父さんはこの絹、何かと取替えっこするの?」説は聞かずにはいられない。
「坊やは賢いなあ。そうさ、西から来る者の品物と交換するのさ」
「また交換するの」
「俺たちゃ、岩塩や肉や毛皮や酪なんかのほかはな、鍋も鎌も剣も小刀も縄も紐も、水を入れたり酪を作る瓢箪も・・みんなこうやって手に入れる。そりゃ家畜の世話の合間に少しは穀物も作るがね、それだけじゃ足りゃしない。だからこうして、交換した絹が、西から来た商人から金物や穀物になるのさ」
「じゃあ小父さん、蚕の卵、欲しいよね」
「説、酪さんの国はここよりずっと北にあるんだぞ」父が笑いながらいった。「それに乾いていて・・とても桑なんて育ちゃしない。命がけで持ち出したって、蚕はみんな繭になる前に死んじまうさ。まあ、王様の近くの人は、何とか匈奴で絹が作れないかって思わぬでもないようだから、漢の方でも俺たちが蚕や桑を持ち出さないよう、厳しく見張ってるんだろうがね」
「そうなの」
「坊や、そうなんだよ。小父さんの所では岩塩や酪が採れる。漢人の中行さんは、それが欲しい。で、匈奴の小父さんは、中行さんの作る絹が欲しい。それをまた鍋や釜や穀物に替える。なあ、中行さん」
「ああ。匈奴の大将もこの辺りに居る漢の将軍も、長城を挟んで時々揉めてるけどな、俺達下々は仲良く補いあって生きていくさ」
「漢の都の偉い人の中にゃ、匈奴が侵入したら、その辺りの蚕小屋を焼き払え・・となあ、とんでもないことを仰る人もあるとかないとか、噂は聞こえてくるぜ。度し難いのは雲の上人だなあ」
「全くだ。一度、実際に長城の辺りで暮らしてみればいい」
「そうすれば突っ張った欲の皮も一皮剥けて、もう少しは世の中が見えるだろうよ。いくら長城作ったって、人と物の流れ合いは止められるもんかね。そういえば、この燕の国の前の王様たちもお気の毒だなあ、中行さん」
「坊やは賢いなあ。そうさ、西から来る者の品物と交換するのさ」
「また交換するの」
「俺たちゃ、岩塩や肉や毛皮や酪なんかのほかはな、鍋も鎌も剣も小刀も縄も紐も、水を入れたり酪を作る瓢箪も・・みんなこうやって手に入れる。そりゃ家畜の世話の合間に少しは穀物も作るがね、それだけじゃ足りゃしない。だからこうして、交換した絹が、西から来た商人から金物や穀物になるのさ」
「じゃあ小父さん、蚕の卵、欲しいよね」
「説、酪さんの国はここよりずっと北にあるんだぞ」父が笑いながらいった。「それに乾いていて・・とても桑なんて育ちゃしない。命がけで持ち出したって、蚕はみんな繭になる前に死んじまうさ。まあ、王様の近くの人は、何とか匈奴で絹が作れないかって思わぬでもないようだから、漢の方でも俺たちが蚕や桑を持ち出さないよう、厳しく見張ってるんだろうがね」
「そうなの」
「坊や、そうなんだよ。小父さんの所では岩塩や酪が採れる。漢人の中行さんは、それが欲しい。で、匈奴の小父さんは、中行さんの作る絹が欲しい。それをまた鍋や釜や穀物に替える。なあ、中行さん」
「ああ。匈奴の大将もこの辺りに居る漢の将軍も、長城を挟んで時々揉めてるけどな、俺達下々は仲良く補いあって生きていくさ」
「漢の都の偉い人の中にゃ、匈奴が侵入したら、その辺りの蚕小屋を焼き払え・・となあ、とんでもないことを仰る人もあるとかないとか、噂は聞こえてくるぜ。度し難いのは雲の上人だなあ」
「全くだ。一度、実際に長城の辺りで暮らしてみればいい」
「そうすれば突っ張った欲の皮も一皮剥けて、もう少しは世の中が見えるだろうよ。いくら長城作ったって、人と物の流れ合いは止められるもんかね。そういえば、この燕の国の前の王様たちもお気の毒だなあ、中行さん」
Posted by 渋柿 at 18:58 | Comments(0)