2009年06月16日
「伏見桃片伊万里」17
圭吾の生家でも勿論、佐賀藩領の有田・伊万里両郷の産の「伊万里」だけでなく、波佐見や三河内のものも含めて、代々くらわんか「伊万里」をも北前船に積んできた。
「どっちにしても多分、伊万里津から積出されたものではあるらしいが」そう、圭吾は説明を結んだ。
慎一郎は、ふっとため息をつく。
「それで伏見で伊万里のお宝、か。それにしても、なあ。この寒空、喘息の子、寝かせるあてでもあればよいが」
「迷惑、かけたくなかったのかな」
「いや、深い事情があったのかもしれん」
慎一郎が腕を組んだ。
「事情?」
「ああ。考えて見ろ、あの言葉遣い、とてもお菰さんとも思えんだったろ」
「まさか。ご落胤とか、お大名の。お家騒動で命を狙われた姫君・・」
「草双紙じゃあるまいし、いや待て、お大名でなくとも、お家騒動はあるな。大店の隠し子が悪番頭に追われている。―いやいやこれも草双紙か。何しろ薬礼がくらわんかのどんぶり鉢、だもんなあ」
「とうとう、名乗りもしなかった」
薄桃色の器だけが、母子との出会いが夢でも幻でもなかったことを証していた。
「温かい色をしている。本当に伏見の桃の汀なのかもな、これは」
慎一郎は碗を差し上げ、息を吐いた。
「伏見か。ああ、何時か行って見たいな、できれば桃の咲く頃」
圭吾も同じ、思えば勉学のみに明暮れてきた。互いに遊山などとは無縁のまま、上阪して三年の歳月は過ぎようとしている。
「どっちにしても多分、伊万里津から積出されたものではあるらしいが」そう、圭吾は説明を結んだ。
慎一郎は、ふっとため息をつく。
「それで伏見で伊万里のお宝、か。それにしても、なあ。この寒空、喘息の子、寝かせるあてでもあればよいが」
「迷惑、かけたくなかったのかな」
「いや、深い事情があったのかもしれん」
慎一郎が腕を組んだ。
「事情?」
「ああ。考えて見ろ、あの言葉遣い、とてもお菰さんとも思えんだったろ」
「まさか。ご落胤とか、お大名の。お家騒動で命を狙われた姫君・・」
「草双紙じゃあるまいし、いや待て、お大名でなくとも、お家騒動はあるな。大店の隠し子が悪番頭に追われている。―いやいやこれも草双紙か。何しろ薬礼がくらわんかのどんぶり鉢、だもんなあ」
「とうとう、名乗りもしなかった」
薄桃色の器だけが、母子との出会いが夢でも幻でもなかったことを証していた。
「温かい色をしている。本当に伏見の桃の汀なのかもな、これは」
慎一郎は碗を差し上げ、息を吐いた。
「伏見か。ああ、何時か行って見たいな、できれば桃の咲く頃」
圭吾も同じ、思えば勉学のみに明暮れてきた。互いに遊山などとは無縁のまま、上阪して三年の歳月は過ぎようとしている。
Posted by 渋柿 at 08:56 | Comments(0)