2009年06月12日

「伏見桃片伊万里」11

「船着場で、あの、伏見から来たいうお人に頂いて。元は九州の伊万里んもんやて」
 母親は、小さい声で言った。
(これも伊万里と言えば伊万里といえんこともないが。お菰をからかうなど、どこの誰だ、罪作りな)
「いやあ、伏見は桃の名所・・芭蕉や蕪村も名句を詠んでおる。この紅斑は点々と桃の花びら、白磁はほんのりと紅を帯びて、淀川の、伏見の桃の盛りの風情じゃなあ」相手の目が見られず、殆どしどろもどろであった。
「はい、優しい色で。この器に、えらい慰めてもらいました」母親は嬉しそうに微笑む。
「けっ、知らぬが仏、か」隼人が毒付く。
「おい!」
「馬鹿はほっとけ、圭吾」
 いつもの大酒の上をいく量だ。
「もう、二階へ行って寝ろ」叱り付ける。
「そう、する」
今夜は、一旦酔いつぶれた後の連続飲酒じみた大酒である。隼人の体内には、いつもの大酒の上をいく量の酒精が溜まっている。
「もう、用もないだろ」
 自分の薬籠を下げて、階段を登ろうとした。 ガン。一段目で蹴躓いてつんのめった。
「大丈夫か」
「まあ、大丈夫じゃないだろうが・・大丈夫かなあ。うん、大丈夫だ。―俺はもう、駄目だな」隼人はそれでも何とか階段を登り、寝部屋にたどり着いたようだった。



Posted by 渋柿 at 06:55 | Comments(0)
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